会社も上司もぜんぶガチャ——そんな中ブレない自分になるには? 佐野創太さんにきいてみる

今回お話をきいたのは「退職学」「引際道」の佐野創太さんです。

 「転職しようか、それとも今の会社で頑張ろうか」というキャリアに関する決断の時、もっとも大事なのは本音を浮かび上がらせること、と佐野さんはおっしゃいます。また、転職活動を始める前にすべきこともある、とのこと。一体どんなことなのでしょうか?

【著者 佐野創太さんプロフィール】
https://taishokugaku.com/
日本初一・唯一の「退職学」/「引際道」の研究家。
個人と組織が「セルフ終身雇用」で結ばれる新しい関係の確立を目指す。1000名以上の「会社辞めようかな」からはじまる退職・転職の相談を実施し、退職後も声をかけられ続ける人物に成長する「最高の会社の辞め方」を提供している。法人には退職者をファンにする「退職コミュニケーション」を提供し、人事や経営者といい会社をつくっている。働く人の本音に触れる立場から、立ち上げ段階のサービスや事業を「働く人の本音に届く言葉」に編集している。

【今回紹介する著書】
「『会社辞めたい』ループから抜け出そう!転職後も武器になる思考法」(サンマーク出版)2022年

——はじめまして、よろしくお願いします! 今回の著書、どのような内容なのでしょうか? 

【佐野さん】
 誰もが一度は思ったことがあるであろう「会社辞めたい」からはじめるキャリア戦略について語った本です。いまの世の中「会社も、上司も、ぜんぶガチャ」ですが、そんな中でブレない自分になるためにどうしたらよいのか、という点について書きました。

 最高の会社はあっても最高であり続ける会社はない、転職で会社は選べても上司は選べない。選べても上司も転職や異動をする。こんな「ぜんぶガチャ」の中で私たちはキャリアをつくっているという前提で話を進めています。

——「ブレない自分」とはどういう自分なのでしょう?

 「ブレない自分」でいる人の特徴は4つあります。転職後「も」うまくいって仕事も生活も楽しめる「本音名人」です。本音名人は、自分の本音に従って「転職しよう」や「いまの会社で頑張ろう」と決められます。モヤモヤ、イライラする自分も否定せず、自分を好きになっています。会社の浮き沈みも仲間と一緒に楽しめるひとです。

——どうすれば「ブレない自分」になれるのでしょうか?

 3つの本音磨きのステップがあります。それが「退職成仏ノート」、「人間関係の仕分けノート」、「明日への手紙」です。これまで20代から50代、就活生から経営者といった様々な属性の1000名以上のひとが実践しています。

——大きくその3つのテクニックがあって、それについて説明した本なんですね。

 そうですね。拙著を手に取っていただければ、誰でもいますぐ「私は本音では転職したいのか、いまの会社で頑張りたいのか、どっちなんだろう」といった自分の本音を確認できます。拙著の特徴は収録した相談者さんの実例や悩みを読むだけで、「私はどうなんだろう」と自分と向き合う時間を取れる点です。

 また、仕事論や経営論だけでなく、音楽や医学、哲学や思想の名言を数多く収録しています。「自分と向き合う時間なんてない」忙しいひとも、読み進めるだけで自然と本音を確認できます。

——悩みのケースごとに、読み進めればいいわけですね。

 はい、「いますぐにでも転職したいか、このまま会社に残るべきか知りたい!」と思っている方は、第4章の本音を職場や面接で伝わる言葉に磨く 【明日への手紙】から読み進めていただいてOKです。最も本音を磨ける時間です。

 「明日への手紙」は最終出社日を想定して、職場のひとに書く手紙です。手紙の内容の良し悪し以上に大切なことがあります。書いている途中で思い出す仕事のシーンやひととの会話によって「私はこの会社に残りたい/次の会社に行きたい」と気づくことに大きな価値があります。

 実践したひとは「もうこの会社なんて辞めたいと思っていたけど、手紙を書いたら込み上げてくるものがあった」と会社を辞めることをやめたひとがいます。「転職する勇気がなかったけど、手紙を書いていくうちにやりたいことが見えてきて、転職する意志を固められた」と転職活動に踏み切れたひともいます。

 手紙を書くことで磨かれていく本音に出会っていただければ幸いです。

——あっ、そうか、退職を思いとどまる人もいるんですね。他にはどんなケースがあるんでしょう?

 そうです。この本は「転職しろ!」とも「会社にいろ!」とも結論を決めつけたりしないですからね。その結論を決められる自分になる本です。

 他のケースだと「転職したいのか、会社で頑張りたいのかすらどうして自分で決められないんだろう。優柔不断なのかもしれない」とモヤモヤの原因を自分の性格に求めることが多い方は、1章から読み進めてほしいです。

 拙著ではモヤモヤする原因を、性格や努力不足に求めません。誰でも経験する通過儀礼のようなものと捉えています。組織で働く以上、「モヤモヤするのは自然なこと」で、それには理由があります。この本では「モヤモヤする原因」を以下の5つに分解し、「まずはモヤモヤしている自分を責めるのではなく、自分が置かれている環境を落ち着いて観察しよう」と提案しています。

1.学生時代の就活と違って、私たちは「孤独で複雑」な転職活動をする
2.「自己分析」や「自分探し」で自分がますますわからなくなる
3.転職支援サービスが「便利すぎる」から、モヤモヤを晴らせなくなる
4.「最高の会社」はあっても、最高であり続ける会社はない
5.そもそも会社が「本音」を歓迎していない

 この5つの原因を知っていただければ、自分を責めることなく次の「退職成仏ノート」に進むことができます。これまで「会社辞めたい」はネガティブ感情と捉えられていましたが、拙著ではその感情を否定することはありません。むしろ「本音の疼きである」と肯定的に受け止めることからはじまります。

 曇ってしまった本音を磨き直すことで「転職(独立)しよう」、もしくは「いまの会社に残ろう」と自分が本当に取りたい選択肢に気づけます。現在50件あるAmazonレビューの中では「これは離婚の場面でも使える」「ママ友やコミュニティーから抜け出そうか悩んでいる時にもいい」「学校で悩んでいる小学生の息子と読んでみます」と書いてくださる方もいます。本音は大事ですね。

——やめるか残るかどちらを選ぶにせよ、まずは本音を浮かび上がらせることが大事ということですね。他にはどんなケースがあるでしょうか。

 責任感が強い方や役職に就いている方は、本書を本音を磨き上げるパートナーとして使っていただけます。そういった方は組織の利益を優先することで結果を出してきた反面、自分の本音と向き合う時間が減りがちです。

 2章の「退職成仏ノート」で「公開されたら差し障りがある」ことも書き込んで本音を浮かび上がらせる。3章の「人間関係の仕分けノート」で職場の人間関係を「つながり・しがらみ・無関心」にわけて本音を「整理」する。4章の「明日への手紙」を書いて、本音をひとを動かす「自分の言葉」に磨く体験をしていただければと思います。

——経営サイドの人にとっても得られる部分はありそうですね。

 はい、「なんでうちの若手は辞めてしまうんだろう」「社員の本音を知っていい会社をつくりたい」と考える経営者、マネージャーの方にもお役に立てると思います。実際に経営者の方からのレビューもいただいていて、「従業員の働く本音を知れる」「1on1を実施するときの注意点やコツがわかる」と受け取ってくださっています。

 私の小さい頃の話になるのですが。私の父は私が生まれたときに起業し、中小企業の経営を30年以上していました。母も途中までは父の会社で人事をしていました。両親からよく聞いていたのは、ひととお金の苦労です。例えば従業員がわざと父を怒らせて「お前はクビだ」の一言を録音され、訴訟を起こされたり。就活で思い出したのは「従業員は怖い。経営者は孤独」でした。

 そんなひととお金に悩まされていた両親も、「いい会社をつくりたい」「従業員の本音を知りたい」と考えているようでした。よく経営者が従業員に「経営者目線を持て」と発信する場面を見聞きしますが、私にはその逆もあるように感じています。それは「経営者である私は従業員目線を持ちたい」です。

 同じ会社にいるのに、従業員にどこかよそよそしさを感じてしまう。真剣に働いているだけなのに避けられてしまう。惚れ込んで採用した社員なのに何を考えているかわからない。当時の私は経営もビジネスも知りませんでしたが「なんだか寂しそうだな」と感じていました。トップの孤独は確かにあるのだと思います。

 もし私の両親のように「従業員目線を知りたい」と考えている経営者の方、マネージャーの方がいらっしゃれば、拙著はお役に立てると思います。30人近くの相談者さんの声と実体験が1冊の本に凝縮されています。何に悩み、何を考え、どう決断し、退職や転職、独立を意思決定していくか。その本音が描かれています。

 「いい会社づくりには社員の本音が必要である」と考える方に、拙著が届くことを願っています。そして、経営者やマネージャーという意思決定者の方の心の拠り所が少しでも広がれば幸いです。

——次の本を書くとしたらどんなテーマで書きたいですか?

 人事や経営者の方といった会社をつくる立場の方向けに【退職者をファンにする「退職コミュケーション」】もテーマのひとつです。

 日本の人口が減り、人材不足に陥っています。アメリカやイギリスでは「大退職時代(The Great Resignation)」という言葉もバズワード的に生まれています。いまは退職することが大前提となった組織づくりのモデルをつくる時期に差し掛かっています。その第一歩は「退職者は裏切り者」「退職は縁の切れ目」という価値観を転換することです。

 「退職者はファン」「退職は関係性の再構築」という価値観で組織を作り直す。すると、これまでは「採用、活躍、定着」までが組織づくりの基本でしたが、そこに退職(エグジット・マネジメント)が追加されます。すでに生まれつつあるアルムナイやカムバック制度のコツをまとめ、きたる「大退職時代(The Great Resignation)」に備える本です。

 「理想の引き際」を考える本もまとめたいと思っています。「退職学」の発展版である「引際道」の本です。

 多くの引き際が私たちを待ち受けています。学生時代であれば卒業や退学、社会人になれば退職や離婚や死別といったひととの別れ。さらに年齢を重ねれば引退。そして誰もが体験する究極の引き際である死。

 引き際はあまり表で活発に議論されず、ひとりで悩んでしまいがちです。でも「死を考えると生が充実する」と考えられているように、引き際を考えることは自分のいまに集中することでもあります。

 そのため、スポーツ選手やミュージシャンといった引退や解散といった引き際を先に体験しているひとたちや、経営者や政治家といった自分の都合だけで終われないひとたち、さらには多くの死を見つめ続けてきた医療従事者の方達の知見を結集させます。引き際の孤独を解消したいですね。

——今後の活動予定は?

 これからも「会社辞めようかな、どうしようかな」からはじまる働き方の相談を実施します。

 「会社を辞めたい」というネガティブに受け取られがちな感情を否定せず、むしろ「本音の疼き」と捉えることからはじまる退職後も声をかけられ続ける人物に成長する「最高の会社の辞め方」を研究していきます。法人には「退職コミュニケーション」を提供しながら、退職者をファンにするいい会社づくりを進めていきます。

 もう個人は「会社を踏み台にする」、会社は「従業員は道具でしかない」とお互いを低く見る関係ではどちらも立ち行かなくなっています。お互いが補完し、浮き沈みを共にできる関係をつくっていく。そんな次の時代の「個人と組織の関係」をつくれればと思います。

 そして、退職だけでなくあらゆる理想の引き際を体系化していきます。卒業や退学、解散や引退、離婚や死。私たちは多くの終わりに囲まれながら生きています。

 これらネガティブに捉えられがちな体験からどう学びや成長を抽出できるのか。克服できるのか。そんな人類が挑み続けている問いを一歩前に進められる礎のような活動をしていきたいと思います。

——引き際って必ず訪れるものですもんね。できれば良い引き際にしていきたいものです。本日はありがとうございました!

(了)

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